主にひとりごと

タイトル通り、ときぶいすの担によるひとりごとです。感じたことを語ったり、好きなことを話したり

「あ」の音で聞く『ドラゴンフライ』

この記事は、青春ラジオ小説「オートリバース」という作品に関する内容です。

HiHi Jetsの猪狩くんと作間くんが主役の2人を務めた、小説原作のラジオドラマ。

知らない人は以下のリンクから聞いてみてほしい(※4月25日までの限定(再)公開)

https://radiko.jp/rg/special/autoreverse/?utm_source=applive&utm_medium=referral&utm_campaign=202104autoreverse&survey_id=67193ce4ad8f57bc5242cb543fe31049


公開が終わっても小説で読むことはできるのでそちらを手に取ってみるのもいいと思います。

ちなみに私はまだ原作の小説は未読です

オートリバースについて

時は1981年。

親の離婚の都合で千葉に引っ越した直(チョク/演:猪狩)は、同じ境遇を持った高階(たかしな/演:作間)と出会い、つるむようになる。

この世界のどこにも居場所なんてないと思っていた直はある日、高階と共に小泉今日子というアイドルをトップスターに押し上げるべく「親衛隊」に入ることを決意する。



雑にあらすじを説明するとこんな感じ。
まずね、主役2人の声でのお芝居がいいんだ。
原作者の方が、ビジュアルでのイメージは配役が逆だったけど声を聞いてこちらに変えた、とインタビューで語っていたのを読んだ。
ガリさんの丸みがあって素朴でありながらも、何となく茫洋としても聞こえる声は直に似合っている。
原作者の書き方なのか、あるいは「ラジオ小説」という媒体の特徴なのか、それとも直がストーリーテラーも担っていたからなのか。
時折、直はすごく詩的な言い回しをする。
それが、その世界に存在していながらにしてどこにも居場所がないと感じていた直の、どことない感情の浮遊感みたいなものに繋がっているように思えてすごくすごくよかった。


作間くんの場合は飄々としつつも声はすごくまっすぐで、不意に零れる吐息や失笑の音が絶妙で。声の通りが良いだけに、喋ってるだけでうっすらと圧が感じられる(もちろん、そういう芝居をしているからだろうけど。それがちゃんと、音声から届いてくる)。

私は2人の顔を知っているからどちらともが喋っているところが想像できるんだけど、知らない人が聞いても、声の調子と台詞等から感じられるキャラクター性に大きな差異が生まれないだろうと思わせるそれは、間違いなく2人の“腕”も大きな要因の1つだと思った。



ネタバレはあんまりしないけど、ここだけ。
どうしてもこれだけは言っておきたいので書いてしまいます

(※飛ばせるようにリンクは貼るので読みたくない方は冒頭に戻って「ドラゴンフライ」の項目に進んでください)






初めてこのラジオ小説を聞いた時(※ネタバレ注意)

第1話を聞いて。
2人の最後の会話。
高階の目が、オニヤンマと同じエメラルドグリーンだという会話のくだり。
その、直の最後の語りを聞いた時。

「えぇ〜〜〜これ絶対に最後に高階が死んじゃうやつじゃあん!!!!」

と喚いてしまったのをよく覚えてる。


同じように感じた人がどれくらいいるのかは分からないけど。
普段、本を読んだりアニメやドラマを見たり、舞台観劇をする人で、同じ感覚になる人がいるかまでは知らないけど。
私は1話を聞いた時点で、「あっ高階死ぬんだな」と思った。
それは、誤解を恐れずに言うのなら、最終的にそうなるのが展開として1番収まりがいいように感じたから。

お芝居を見てる時、不意に作り手の意図が登場人物の心情や言動に濃く絡んでいると分かる瞬間がある。
それこそ、“死”とか“失恋”あるいは“恋の成就”等はその気配を感じ取りやすいように思ってる。
いわゆる、「フラグ」ってやつだという認識でいいと思う。

それが回収されるのが、“物語”の形として綺麗に思える。
それを、受け取り手が望むか望まないかは別として。


で、話が進んでいくにつれ、直や高階に思い入れが強くなり愛着が湧いてくる程に、そうならなきゃいいのにと願ってしまうのに「それ」目掛けて話の展開が動いていくのが痛烈に心臓を打ってきた。
それこそ、もう戻れないところまできた段階で「そう」なって。
心がぐったりしているのに最後までちゃんと見届けて(聞き届けて)やりたいという愛着まで芽生えていて。

「創作物に打ちのめされる」ってこういう感情だったな。

と、久しぶりに感じた。

簡単に言えば、情緒をかなり振り乱された。


そして私の事を何より強く打ちのめしたのは、「オートリバース」のテーマソングとなっている『ドラゴンフライ』だった。

※ここからようやく本編です



『ドラゴンフライ』

オートリバースの原作者の方が作詞を担当されたこの曲は、まさにオートリバースのテーマソング。知らないで聞いてもグッとくるけど、知ってて聞いたらオートリバースとリンクしているところをたくさん見つけることができてさらにグッとくる。


私は初めてこの曲を聞いた時、オートリバースの存在はぶっちゃけ知らなかった。
たまたま聞いて、「あっこれはヤバいやつでは?」と思い鬼のようにリピートした。
誇張ではなく、おそらく3日でだいたい200回くらい聞いてたと思う。
中でも最後の「会いたい  この胸の穴は貴方」と歌う作間くんと「ああ痛い  この胸の穴は貴方」と歌うガリさんの対比に心臓をやられた。
というか、「あ」の音の捉え方を中心に彼らの歌い方がことごとく対比されていて堪らない気持ちになる。



※これは本人たちがどこまで意図的なのか分かんないし本人がこうと決めて歌ってるのかレコーディング時とかに大人に言われてのアプローチなのか、それとも手癖なのかも分からないままで書いてますので予めご理解ください。
※また、自分の捉え方こそが正しいとも思っていませんので「お前の感じ方は間違ってる」という意図の反論も受け付けかねます



作間くんとガリさんがソロで歌ってる「この胸の穴は貴方」の「あ」の音は2箇所。

まず作間くんはそのどちらともにアクセントをしっかり入れてくる。
その音に焦点を当て、直前で一瞬喉で呼気を止め、パンと破裂させるようにその音を強調してる。
こういう歌い方の効果って、歌そのものが単調にならないような区切りやメリハリの役目があったりするし、歌詞に注目するとその部分の「詩」や「言葉」を印象づけやすい。あと個人的にですが音程のコントロールがやりやすくなるように思うので、その部分の音を外したくない時とかは意識的にやったりするかと。

でも、流石に「[あ]なは[あ]なた」とこの短いスパンで2度もアクセントをつけるってのは珍しい方だと思う(ずっとア段の音が続くしメロディーラインもあまり変わらないので最低でもどっちかには入れた方が聞きやすいだろうけど)。

この部分の歌詞で両方の「あ」にアクセント入れるのって癖のようにいつも全ての「あ」にアクセントを入れてるわけでもない限りは意識的にやらなきゃできないことだと思う。
そしてこれを検証するため、Jr.チャンネルにて公開されている他の楽曲もいくつか聞いてみたけど、どうも前者ではなさそうなので、意図的に両方にアクセントをつけたものと考える。

両方にアクセントをつけたのが意図的だとするのなら、それには必ず理由が存在する。
「穴」「貴方」であることをしっかりと押し出したかった理由が。
オートリバースで作間くんが演じた高階を思うと、作間くんが歌う「貴方」小泉今日子であるのは明白。高階の中に空いた大きな穴、それを埋められる小泉のために高階は親衛隊の勢力をどんどん大きくしようとしていたんだから。
でも、ここからは私の豊かな妄想力がものを言ってるんだという前提で。
作間くんの歌い方を聞いていると、それ“だけ”に留まらないんじゃないのかなって思えてしまう。 

このパートを、すっごくチャーミングに歌うんですよね、作間くん。
歌ってる時の声もそうなんですけど、「この胸[の]」←の音とかも、音の形がすごく可愛い。語尾もちょっと弾んだ感じで、愛らしさがある。
可愛らしくて、どこか甘酸っぱさを漂わせるような、究極にピュアな歌い方。
そう、まるで、1人の男の子が恋をしているみたいに。
高階は小泉のことを直に話す時、最初に「好きな女」と表現した。
「好きな女ができた」と。
1人のアイドルを応援するファンであり親衛隊の1人でありながら、アイドルに恋をする男の子みたいな側面も、もしかしたらあったのかもしれない。
やり方こそ間違えたけれど、高階は小泉今日子というアイドルに対して、一人の男として真剣だった。
高階の心の穴を埋めることができていたのは小泉で間違いない。
ただ、これは私の感じ方だけど。
最終話、唯一視点が高階に移る場面での語りを聞いて。
きっと高階にはいっぱいの“穴”が空いていて、その一つ一つにハマる“貴方”がいたのかもしれないな、とも思った。
だからこその「[あ]なは[あ]なた」という、一つ一つを限定した歌い方なのかもしれない、とも。

その1番多くを占めるのがきっと小泉で、その“貴方”の1人は直だったりもするんだろうな、と。



で、一方のガリさんはというと。

ガリさんの方は、どちらにも分かりやすいアクセントは入ってないんですよね。

1つ目の「あ」の音には半母音の[w]の音が付属してて、2つ目は喉をしゃくるような歌い方(イメージは[h]の音が語頭にくっついてる感じ)で、強弱はつけつつも呼気が止まることは一切なく歌いきっている。
ガリさんの歌い方って実は結構難しい。
何が難しいって、音を外さないようにするのが難しい。
ああいう、“がなる”ように聞こえる歌い方って感情を込めやすいんだけど、その分だけ音のコントロールという点での難易度は上がると思う。
これが上手くいってるのはガリさんの喉のコントロールが上手いからだろうし、ラップ担当で元々“がなり”や“しゃくり”は上手いであろうガリさんならではの歌い方でもあると思う。


さて、対照的な2人の歌い方。
オートリバースの存在を知らず『ドラゴンフライ』を聞いてた時、私は
「この歌は3人以上の登場人物がいるんだろうな」
と感じていた。
正確には、最後の2人が歌う「貴方」は別の人を指しているんだろうと。
これは偏見だけど、大体において「僕ら」2人以上の登場人物が出てくる歌における「貴方」はもう片方を指すことが多いように思う(あるいは、聞き手を指すことも多い)。
でも、この歌から感じた「貴方」のベクトルは完全なる“第三者”の存在だった。
最初、『ドラゴンフライ』を聞いてるだけではどっちのベクトルがもう片方でどっちが第三者を見ているのかは分からなかったけど。
オートリバースを聞いて。
ガリさんが歌う“貴方”は高階のことなんだろうなと確信した

“がなる”ような歌い方は感情的にも聞こえる。
この世界のどこにも居場所はないと色んなものを諦めて、退屈で、大人しく仮の居場所で生きていた直は色んなものに流されるように生きていたズルズル人でもあるけれど。
唯一。
高階に関することだけはハッキリと感情的になっていた
不良の先輩に“高階のパシリ”だと揶揄された時も。
川西が登場した時も。
終盤、“制裁”を加えられるかもしれないとなった高階を庇おうとした時も。
作中で直がムキになったり感情を露わにしたのは高階に関する場面だけだった。
腹の底からかき集めたような声量で声を張り上げる、それを見せたのは。

だから、「ああ痛い」と前置きがあった上で。
「この胸の[あ]なは[あ]なた」と、どこか振り絞るように歌うそれは、きっと直から高階に向けられた言葉なんだろうと、オートリバースを聞いた後に『ドラゴンフライ』を聞いてよりいっそう苦しくなった。
だって語頭音とはいえ。
冒頭の[あ]の小さな光 求めて」と歌う、その時の「あ」の音にはしっかりとアクセントが入ってるんだもの。
あぁ、直にとっての「小さな光」小泉(あるいは親衛隊)で。
「胸に空いた穴」高階なんだな、と。
聞き手(読み手)の想像力を掻き立てるには十分すぎる歌い方だと思った。



『ドラゴンフライ』という楽曲は。
オートリバースのために作られ、それを書いた人と同じ人が言葉を綴ったからここ痛烈に胸を打ち、私のような「創作物から感じられる人の心に触れる」のが好きなタイプの人間にぶっ刺さるんだろうなと思う。
もし、創作物に打ちのめされてみたいと思う人がいれば、聞いてみてほしい。
当時を懐かしがる世代の人も。
知らないけれど覗き見してみたいと思う人も。
その頃を駆け抜けた彼らを、耳で読んでみるのはきっと楽しいから。

"HiHi Jets「ドラゴンフライ」(Johnnys' Jr. Island FES)" を YouTube で見る - https://youtu.be/pQ_GSiDNPQ4